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2024年度 江崎玲於奈賞・つくば賞・つくば奨励賞受賞者

2024年度 江崎玲於奈賞

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安藤 敏夫(おさくらいうあんどう としお)

金沢大学 ナノ生命科学研究所   
特任教授 特別功績教授 名誉教授

受賞の対象となった研究主題

 高速原子間力顕微鏡の開発とタンパク質分子の機能動態機構解明への展開

受賞理由

   原子間力顕微鏡(AFM)は物質の表面構造を原子分解能で観察する装置として、大きなインパクトを与えてきた。当初は、観察が可能な試料は、大気中や真空中の固い試料に限られていたが、その後の装置改良によって、液中での生体分子の観察も可能となった。しかし、観察には数秒を要し、ビデオレートでの動的観察は不可能とされていた。安藤氏は、この様な限界を超える高速撮像可能なAFMの装置設計に挑み、1-2ナノメートルの空間分解能で、柔らかい分子を壊さずに、一枚の画像を数十ミリ秒で撮像できる高速AFMの開発に成功した。さらに自ら開発した装置を用い、分子モーター・ミオシンの運動など、これまで間接的にしか測定できなかった生体現象を直接観察することに成功し、新たな分子動態機構をも明らかとした。本装置は既に市販されており、生命科学の分野を越えて、ナノスケールで起きる動的現象の観察に広く利用されていくことが期待される。


2024年度 つくば賞

谷口 尚(おさくらいたにぐち  たかし

物質・材料研究機構 
理事

渡邊 賢司(おさくらいうわたなべ けんじ)

物質・材料研究機構 電子・光機能材料研究センター   
特命研究員

受賞の対象となった研究主題

 六方晶窒化ホウ素の高純度化技術開発と2次元量子材料応用

受賞理由

   窒素原子とホウ素原子からなる化合物である六方晶窒化ホウ素(h-BN)は、断熱材や絶縁体等として長年実用に供されてきたが、高純度単結晶の合成例はなく、電子材料としての応用は全く未知数であった。谷口、渡邊の両氏は、高圧合成技術を用いて、高純度単結晶の合成に世界に先駆けて成功し、非常に高効率な遠紫外発光特性を発見した。さらに、高純度h-BN単結晶は、グラフェンを支持する基板としても優れた特性を示すことが見出された。この高純度h-BN基板を世界40ヶ国、350の研究グループに試料提供を行うことで連携研究を進め、グラフェンをはじめとする2次元原子層材料における数多くの新たな物理現象の発見に繋がり、累計2,000報以上の共同研究論文が出版されることになった。このような2次元原子層材料の黎明をもたらした高インパクトの学術研究成果は、谷口、渡邊の両氏の高純度h-BN基板なくしては実現しなかった。


2024年度 つくば奨励賞(実用化研究部門)

張 晗(ザン ハン)

物質・材料研究機構 マテリアル基盤研究センター
先端解析分野 電子顕微鏡グループ
主任研究員

受賞の対象となった研究主題

 電子顕微鏡に技術革新をもたらす超高輝度ナノエミッターの実用化

受賞理由

  現代の半導体製造や生物医学研究などではナノスケールでの操作が求められ、そのための「目」の役割を果たす電子顕微鏡には高い輝度の電子源が必要になる。ところが、従来の方法では安定した電子放射特性を確保できず、実用的な電子源が実現できていなかった。受賞者は、LaB6ナノワイヤからLa 原子クラスターを作成することでこの状況を打破し、堅牢で実用に耐える超高輝度の量子ナノ電子源を実現することに成功した。この新手法は電子顕微鏡のみならず電子加速器などの新しい小型電子源の基盤となり、その応用研究にも大きく寄与するものと考えられる。本研究は、将来のナノテクノロジーを支える電子顕微鏡に必須の電子源を実現したものであり、その社会への波及効果は非常に大きい。また既にNIMS発ベンチャー企業が設立されて実用化に向けた事業が開始されており、今後の発展が期待できる。


2024年度 つくば奨励賞(若手研究者部門)

平野 有沙 ( ひらの ありさ

筑波大学 医学医療系
助教

受賞の対象となった研究主題

 概日時計の破綻による概日リズム障害発症メカニズムの解明と、その治療法の開発に資する研究

受賞理由

 生物は自律的に時を刻む体内時計(概日時計)により外界環境へ適応しており、睡眠障害や癌、鬱病などの病気と連関している。平野氏は、世界に先駆けて、概日時計において重要な役割を担っている時計タンパク質CRYの分解と安定化のバランスが概日リズムに必要であること、および、もう一つの時計タンパク質のPER3の発現量低下により鬱様行動が上昇することを見出した。また、化合物の概日時計の位相(時刻)応答への影響をハイスループットで解析できる方法を確立した。以上のように、平野氏は、概日リズムの新たなメカニズムを見出し、その破綻が鬱様行動の原因となることを示した。さらに、概日時計の位相(時刻)応答をハイスループットで測定できる解析システムを確立し、時刻調節が可能な新薬の開発が期待できる成果を挙げている。